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富士山

田口 ランディ
富士山
 田口ランディは初めてだ。「なかなかやるな、ランディ」と思った。

 タイトルは「富士山」だが、山岳小説ではない。富士山をシンボルとして捉えて、日常のストーリーと絡めたもの。人生のやり直しをはかる若者を描く「青い峰」。樹海についての様々を描写する「樹海」。富士山を背景にゴミを集めて生活する老婆の話「ジャミラ」。そして、人間の持つ醜い部分を富士山を登ることで昇華していく様を描く「ひかりの子」。



 富士山という存在をただの山以上の存在として捉えることは特の新鮮でもないし、珍しいことでもない。富士山に限らず、また山に限らず、自然の事物を神が宿るものとして捉える文化は日本には古来から存在するものだ。そう考えると、富士山をシンボルとして捉えた小説というのは普通に昔からあるはずだ。本作は、田口ランディという作家が若者によく読まれていること、内容が身近な話題をもとに書かれているのがいいとこなのかと思う。とりあえず、こういう文化があること知っとけ、みたいな。



 個人的には、「ひかりの子」の登山シーンの描写はいただけない。小説とはいえ、「ぼったくり山」だの「カネカネカネ、、、」だのといった書き方は、富士登山のイメージダウンだし、登山自体も誤解されかねない気がする。そういう意味でも「山岳小説」ではなく「富士山小説」ということなのだろう。